No.008 hide 短編

PROFILE No.008 Hide
20代 / 高専卒の物語

バイオリン少年が博士・起業家・教授になるまで

プロフィール No.008

Hide hide

神戸高専から神戸大学、博士課程、学習塾の立ち上げを経て母校の教員へ。
研究と教育、二つの「好き」をつなぎながら歩んできたキャリアストーリー。

ニックネーム
Hide
年齢
30代
性別
男性
出身校
神戸高専(電子工学科)
現在の職業
高専教員
経歴
神戸高専(電子工学科) → 神戸大学へ編入 → 大学院・博士課程 → 博士号取得 → 学習塾の立ち上げ・教室運営 → 母校の高専教員
自己紹介
音楽の道を志した中学時代を経て、神戸高専へ進学。数学やプログラミングに魅了され、神戸大学編入後は半導体研究の道へ進み、博士号を取得しました。一方、塾講師の経験から「人に教え、成長を支えること」にやりがいを感じ、研究者ではなく教育の道を選択。学習塾の立ち上げ・経営を経験し、現在は母校の高専教員として、研究と教育の両面から学生の成長を支えています。
CAREER STORY No.008 Hide

研究か、教育か。
遠回りの先で、二つの「好き」が一つにつながった

ゲームや電子工作への興味から高専へ進み、 量子物理・半導体研究を突き詰めて博士号を取得。 その一方で、長年続けてきた塾講師をきっかけに教育の面白さを知り、 塾の立ち上げ・経営まで経験したHideさん。
研究と教育という一見別々に見えた道が、 最後に「高専教員」という仕事で一つにつながるまでを、 6つの章からたどります。

CAREER FLOW
ゲーム・電子工作 神戸高専・電子工学科 神戸大学編入 大学院・博士課程 半導体研究 学習塾立ち上げ 塾経営 高専教員
01 幼少期〜中学
原点

ゲームとバイオリンから始まった、
二つの「好き」

Hideさんは、兵庫県尼崎市で 三人兄弟の長男として育った。 大人しく、一人で過ごす時間も好きな少年で、 特に夢中になっていたのがRPGなどのテレビゲームだった。

ゲームを続けたい一心から、 調子の悪いテレビを自分で触るようになり、 次第に家電を分解したり、配線を確認したり、 はんだごてを使ったりするようになる。

「なぜ動くんだろう。中はどうなっているんだろう」

そんな好奇心が、 後の電子工学や研究の世界へつながる 最初の入り口になった。

もう一つ、Hideさんの人生に大きな影響を与えたのが、 小学5年生から始めたバイオリンだった。

休日は朝から夜まで練習するような厳しい環境だったが、 仲間と一つの音楽を作り、 人前で演奏する喜びを知った。

中学では生徒会長も務めながら演奏を続け、 将来は本気でバイオリニストを目指すようになる。

しかし、両親から音楽の道を反対され、 初めて大きな進路変更を経験した。

そんな時、先生から渡されたのが 高専のパンフレットだった。 「就職率の高さ」に惹かれ、 音楽とはまったく違う新しい道へ進むことを決めた。

この時期の原点

機械の中身を知りたいという好奇心と、 一つのことを続ける継続力。 二つの「好き」が、その後の人生の土台になった。

02 高専
挫折と発見

成績への挫折が、
「もっと知りたい」に変わった5年間

電子工作が好きだったことから電子工学科を選び、 Hideさんは高専へ進学した。

中学では学年上位。 推薦入試にも大きな不安を感じることなく合格し、 高専生活をスタートさせた。

ところが入学後、 最初の定期試験で大きな壁にぶつかる。

中学時代と同じ勉強方法ではまったく通用せず、 得意だった数学や理科でも平均点以下。 仲の良い友人たちの中でも、 自分が最も低い成績になった。

初めての、大きな挫折。

そこでHideさんは、 勉強方法そのものを一から変えた。

同じ問題を何度も解き、 先生が口頭で話した内容まで細かくノートに残す。 先輩からもらった過去問も徹底的に解いた。

その積み重ねによって、 少しずつ成績は上がっていった。

さらに自分のパソコンを手に入れると、 プログラミングにも熱中するようになる。 数学や物理も、 いつしか「試験のために覚えるもの」から 「もっと知りたいもの」へ変わっていった。

量子力学や半導体の世界を知るにつれ、 入学時には考えていなかった思いも生まれる。

「もっと深く学びたい。研究をしてみたい」

バイオリニストになる夢を失い、 偶然のように選んだ高専。 しかしそこでHideさんは、 新しい人生の目標となる「研究」に出会った。

高専で起きた変化

「点数を取るための勉強」から、 「知りたいから学ぶ」へ。 学ぶことそのものが、次の進路を決める原動力になった。

03 大学編入〜大学院
探究

「もっと知りたい」を突き詰め、
博士への道へ

研究者を目指すため、 Hideさんが選んだのは大学編入だった。

条件は、 「量子物理を深く学べること」と 「高専から3年次編入できること」。

候補を絞った結果、 神戸大学への一本勝負を決めた。 落ちれば就職するという状況の中、 塾講師のアルバイトを週5日続けながら、 夜遅くまで受験勉強を重ねた。

そして第一志望への合格をつかむ。

大学では念願だった量子物理を学び、 研究への興味はさらに深まっていった。

「2年間では足りない」と感じ、 そのまま大学院へ進学。 その後は半導体のコンピュータシミュレーション を研究するようになる。

そこで初めて、 高専時代に学んできた数学、物理、 プログラミングが一つにつながった。

仮説を立て、計算する。 結果が予想と違えば原因を考え、 条件を変えてもう一度検証する。

誰も答えを知らない問いを、自分で追い続ける。

その面白さにのめり込み、 Hideさんはさらに博士課程へ進学した。

一方で、 高専時代から続けていた塾講師も辞めなかった。 さらにバイオリンも続けていた。

研究室、塾、音楽。 忙しい毎日だったが、 どれも自分が好きで選んだものだったからこそ続けることができた。

この頃のHideさんは、 将来は研究者になると信じていた。 しかし、長く続けていた塾講師という経験が、 もう一つのキャリアの可能性を育てていた。

この時期に育った二つの軸

答えのない問いを追う「研究」と、 人が理解し成長する瞬間に関わる「教育」。 二つの興味が並行して育っていった。

04 博士〜起業
方向転換

研究者になるはずだった人生を、
「教育」が変えた

博士課程の終盤。 研究職を探し始めたHideさんは、 初めてキャリアの現実に直面する。

博士卒向けの研究職そのものが多くなく、 さらに自分の専門である半導体や量子物理に絞れば、 選択肢は限られていた。

そんな中でも、 長年続けてきた塾講師は辞めなかった。

生徒が分からなかった問題を理解する瞬間。 苦手だった科目を少しずつ克服していく姿。

そこには、 研究とはまったく違う種類の 大きなやりがいがあった。

研究者か、教育者か。

二つの道の間で迷い始めた頃、 塾長から思いがけない誘いを受ける。

「一緒に新しい塾を立ち上げないか」

博士号取得後、 Hideさんが選んだのは、 研究職ではなく新しい塾を立ち上げる道だった。

教室を借り、 机や椅子を揃え、 周辺の競合を調査する。 広告やホームページも自分で作った。

研究で身につけた 「仮説を立て、検証し、改善する」 という考え方は、 意外にも経営の世界でもそのまま生きた。

生徒が増えるにつれ、 講師の育成も担当するようになる。 そこでHideさんは、 教育に対する考え方をさらに深めていった。

教育とは、教えるだけではなく、
人が成長できる環境をつくること。
研究から教育・経営へ

キャリアは変わっても、 考え、試し、改善するという研究者としての思考は、 新しい世界でも大きな武器になった。

05 塾経営〜転機
成功と失敗

事業を大きくした先で気づいた、
「本当にやりたかったこと」

立ち上げた一校目の塾は、 順調に成長していった。

2年目には法人化。 3年目には二校目を出すまでになり、 事業は少しずつ拡大していった。

ところが、 二校目は思うように生徒が集まらなかった。

広告を変え、 イベントを実施し、 改善を重ねる。 それでも状況を変えることはできず、 最終的には閉校を決断した。

事業の成功と失敗を経験する中で、 Hideさん自身の仕事内容も大きく変わっていた。

授業より会議。 生徒と向き合う時間より、 売上や採用、教室運営を考える時間が増えていった。

教育をするために始めたはずなのに、 気づけば「経営者」として過ごす時間の方が長くなっていた。

そこでHideさんは、 改めて自分自身に問いかける。

「自分は、本当は何をしたかったんだろう」

答えは、 会社を大きくすることでも、 経営者になることでもなかった。

目の前の一人と向き合う。

その人が悩み、 考え、 少しずつできることを増やしていく。

その成長の過程を近くで支えること。

それは、高専時代に塾講師を始めた頃から、 ずっと変わっていなかった思いだった。

約5年間続けた塾を離れることを決断した頃、 今度は母校から 高専教員募集の連絡が届く。

研究もできる。 学生にも教えられる。

それまで別々の道だと思っていた 「研究」と「教育」が、 ここで初めて一つにつながった。

事業経験から見つけた軸

Hideさんが本当にやりたかったのは、 組織を大きくすることではなく、 一人ひとりの成長に深く関わることだった。

06 現在
現在地

研究者と教育者、
二つの自分が重なる「高専教員」へ

選考を経て、 Hideさんは十数年ぶりに母校へ戻った。

今度は学生ではなく、 高専教員として。

授業、実験、卒業研究の指導、 学会運営、そして自身の研究。

博士課程まで積み重ねてきた「研究」と、 塾講師・塾経営を通じて培ってきた 「教育」

その両方を生かすことができる仕事だった。

博士課程の頃には、 「研究者か教育者か、 どちらか一つを選ばなければならない」 と考えていた。

しかし高専には、 その二つを同時に続けられる環境があった。

振り返れば、 Hideさんのキャリアは決して一直線ではない。

ゲームは機械への興味を生み、 バイオリンは続ける力を育て、 高専では学ぶ面白さを知った。

研究では論理的に考える力を磨き、 塾では人に伝え、人を育てる喜びを知り、 経営では「自分が本当にやりたいこと」に気づいた。

当時は別々に見えていた経験が、 現在の高専教員という仕事の中で 一つずつ意味を持ち始めている。

最初から「天職」を見つけたわけではない。

好きなことに向き合い、 時には諦め、 違う道へ進み、 その場所でまた新しい興味を見つける。

その積み重ねの先に、 Hideさんらしい現在のキャリアが形づくられている。

HIDE'S CURRENT STORY

遠回りに見えた経験も、
振り返ればすべてがつながっている。
天職は、最初から見つけるものとは限らない。

研究と教育の両方を通じて、
次の世代が「もっと知りたい」と思えるきっかけをつくる。
それが今の、Hideさんの仕事です。

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